toremorの旅手帳

鉄道と旅行と温泉と。大学生の放浪の様子をご覧ください。

手書きでしかつくれないきっぷで旅に出ようと思う

「不便」は思い出になるけれど、便利さに勝てない

旅行前にきっぷを買う。

そして、ちょっとしっかりした紙、「チケット」を手にする。

こういう瞬間にドキドキを感じるのは、子供のころからでした。

ひょっとしたら旅に出る瞬間よりも好きかも。

 

ところが最近、チケットそのものを手にする機会が少なくなりました。

飛行機にバス、鉄道のチケットもインターネットで買うのが普通になった今、

そのドキドキを感じるのは手軽でなくなった気がします。

 

JR東日本の直営、びゅうトラベルサービスは2022年度までに、

「びゅうプラザ」を閉店させることを明らかにしました。

 

このことに対して、「老人が困る」だとか「困らない」だとか、

専門家風な方が書かれたいろいろな記事が出てますが、

個人的には「困る」ことは少ないんだと思います。

 

皆さんは日常的に、旅行会社の窓口に行って、

わざわざ係の人と相談してホテルの予約を取りますか?

 

ホテルの予約の7~9割がネットであるといわれる時代に、

電話や旅行会社の窓口に向かう機会は減ったのでは?

 

ただ、「予約の仕方が分からなくて宿泊しなくなった」という人も、

そこまで多くはないのではないでしょうか?

 

多分、旅行会社の窓口が少なくなっても、困る人は少ない。

そんな中で人件費のかかるこういう業務は減らした方が、

企業側にもいいはずです。

 

私は、確かに鉄道のきっぷを買う機会や、

旅行会社の窓口へ行く機会が減って寂しいわけですが、

同時に便利なネット予約の恩恵を受けています。

 

便利さと思い出との選択をしても、便利さには勝てないんです。

 

だからここでは、「サービスの低下だ!」とか、「顧客の切り捨てだ」とか、

そういうことだけを言うことは止めておきます。

実際そう思っているわけでもないし。

 

「今の新幹線は昔の旅行の楽しさがない…ワシが若かった頃は上野駅できっぷを買って急行八甲田のボックスシートで…」というおじさんがいても、

青森で夕飯を食べてから東京の自宅にその日のうちに帰ることができる便利さに勝てないのと同じです。

 

でもね、でもですよ、寂しいには寂しいんですよ。

それならばまだ「思い出」の方を選択できる時代に、

あえて不便でも、チケットを文字通りに手にしたい!

 

そう思いまして、機械やネットで作れない、人の手でしか作れないきっぷを、

買ってやろうと思ったわけです(前置きが非常に長い)。

 

手書きでしかつくれないきっぷをつくる

全国を網羅するJR。

都市部ではICカードでどこへでも行くことができ、

地方でも整理券か機械できっぷを買うことができる場合がほとんどですが、

今でも、手書きでしか作れないきっぷがあります。

 

その中で最も有名なのが「複雑な経路で1枚のきっぷを買うこと」

 

JRのきっぷは、実は目的地までの行き方をオーダーメイドでつくることができます

そのため事前に行き方(=経路)を複雑に設定でき、

1枚のきっぷで迷路のように全国の鉄道を乗り継ぐことができます。

 

細かくはいろいろありますが、20以上の路線を乗り継ぐ(経路数が20を超える)と、

普段購入できる、こういうきっぷでは作れなくなります。

機械の方がキャパオーバーになっちゃうんです。

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指定席券売機や、みどりの窓口などで購入できる一般的なきっぷ。新幹線などで目にする機会が多いはず。

この画像のきっぷの場合、経由と書かれたところに、

「篠ノ井線としなの鉄道線を篠ノ井駅で乗り換える」ということが書かれていて、

この場合、経路数は「篠ノ井線としなの鉄道線」をカウントし、2になります。

 

このくらいであれば、機械で難なく、作ることができます。

 

では複雑な経路というものを作ってみましょう。

ルールは簡単。

  • 同じ駅を2回通ってはいけない(2回通った時点で1枚のきっぷが終わる)
  • 基本的にJRだけを使う

 

具体的にどうすればいいかというと、

路線図を迷路のように辿って経路を探します。

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「一筆書き」で描けるルートであれば、長い距離でも1枚のきっぷでつくることができる。このルートは1700kmを超える長さで一周している。色々と制約はあるが、20以上の路線を乗り継ぐルートに設定すると「手書きでしかつくれないきっぷ」を手にすることができる。


 見づらくて申し訳ないですが、赤いペンでひかれた部分が経路となります。

 

このルートでは20個の路線をまたいでいるわけではありませんが、

新幹線と在来線を乗り継ぐと、その乗換駅も経路数にカウントされるというシステム上の都合で、20という経路数を確保。

 

こんなに複雑でも、制度上は「乗車券」。

普段列車に乗るときに買うきっぷと変わりません。

実際にこの紙をみどりの窓口にもって行きます。

 

「不便」にきっぷを買う

空いている時間に松本駅のみどりの窓口に、このマーカーの引かれた路線図を持っていきます。

 

すると係の方がまず、機械にこのルートを打ち込みます。

これにはかなり時間がかかる(ルートを打ち込むのは手作業)ので、

空いている時間を狙いました。

 

奮闘してくださるみどりの窓口の係の方、

こんなへんてこりんな「きっぷ」を買うお客さんは珍しいため、

窓口に何人もの係の方が集まってきました。

 

結局、「申し訳ないです…経路数がオーバーしていて機械では作れません…こういうのは向かいの「びゅうプラザ」さんが得意なのでそちらへお願いします!」

とのこと。

 

申し訳なくないよ、こっちが変なきっぷ作るんだから!

と、内心ニヤニヤしながらびゅうプラザさんへ。

 

「すみません、こういうきっぷを作りたいんですけど…」

びゅうプラザに入って、さっきの路線図をわたし、

丁重に(?)お願いしたところ、係の方が快諾してくださいました。

 

係の方、「そうですね、紙できっぷを作るので、少々お時間をいただきますね。」とちょっと嬉しそう。

大変な作業なのでこちらも感謝の気持ちを伝えます。

 

小一時間ほど待って、完成したきっぷはこちら。

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手書きでしかつくれないきっぷ、「出札補充券」。自動改札は通れないが普通のきっぷと同じ使い方ができ、途中下車もできる。

実はこれは2枚組になっていまして…

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きっぷの裏と経路の書かれた「別紙」。

「おお!」受け取るときについ声が出てしまいましたが、うん、これだ。

旅行の前にチケットを買うドキドキ、ここにあり。

 

人と話しながら、試行錯誤してチケットをつくる楽しさが、ここにはありました。

 

こういうきっぷは、鉄道マニアの方ならご存知かもしれませんが、

「出札補充券」と呼ばれます。

 

このきっぷの有効な期間は10日間。

その間、ルートを戻らなければ何回でも、途中下車ができます。

次の日も同じきっぷで乗れるのです。

 

びゅうプラザが廃止されたら、この「びゅうプラザ松本」と書かれたきっぷは、

貴重なものになるかもしれません。

手書ききっぷの意外なメリット

このきっぷを作るのはなかなか「不便」ですが、実はメリットもあります。

最大のメリットは、「安いこと」。

 

このきっぷを通るコースは1000kmを越えています。

松本から青森まで行って、東京回って松本に戻っても、14510円(学割)。

仮に半分を片道と考えれば、7000円で松本から青森まで行けることになります(別途指定券や特急券を買う必要はありますが)。

 

これはJRのきっぷの制度で、「目的地が遠ければ遠いほど安くなる」というものを利用したものです。

これは手書きのきっぷだけに適用されるものではなく、機械で作られたものでも反映されます。

 

時代を嘆くのはまだ早い!

まとめれば、私がただ「最近味わいにくい旅行の前にチケットを買うドキドキを味わいたい」というだけだったんですけど、

伝えたいのは、「便利さに埋もれた不便な思い出は、探せば意外と作れる」ということです。

 

時代を嘆く前に、楽しみましょうよ(若い風)。

 

青春18きっぷだって、特急や新幹線を使えない不便さはあるけれど、

いつも通り過ぎるローカル線を楽しめる良さがあります。

 

まだ、ローカル線の旅は楽しめます。

 

また、普段交通手段にこだわりのない方でも、

便利な乗り物でないものをチョイスすると、

意外な発見があるかもしれません。

 

不便は思い出になりやすいですから。

 

だいぶ話が大きくなりましたが、これから夏休みシーズン、

まだまだ楽しめるぞ!と言いたいだけです……

 

それではこのきっぷで旅に出るまで、ドキドキして待ちます。