鉄道復旧には時間差があった
はじめに、台風で被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。
台風の影響で長らく運転を見合わせていた、中央線の特急「あずさ」。
10月末に運転を再開し、松本近辺では日常を取り戻しつつあります。
一方、北陸新幹線は車両が千曲川の決壊で半身浴状態になり、廃車が確定。
なんとか現在では通常の8~9割くらいの本数を維持し、こちらもアクセス自体は困ることはありません。
台風のあと、長野県内では
中央西線(塩尻ー名古屋)→北陸新幹線(東京ー長野)→篠ノ井線(塩尻ー松本ー長野)→中央東線の一部が復旧→「あずさ」
の順で動けるようになりました。
北陸新幹線の東京ー長野間の復旧は早く、中央線特急よりも先に運転が再開されました。
これによって長野県内は台風以来「陸の孤島」となりつつあった現状を打破し、人の行き来ができるようになったのです。
ところが「新幹線は動くけど、あずさは来ない」という期間が結構あり、長野県内では諏訪地域を中心に、「あずさより新幹線重視なのか」と不満の声があがるようになります。
なぜこのような不満が噴出したのでしょうか?本当に新幹線重視だから?
「新幹線」が先に運転再開をして、あとから「あずさ」が動いた今回のケース、地域別に状況を振り返ってみたいと思います。
- 鉄道復旧には時間差があった
- 一番被害が大きかったのは山梨県内の中央東線
- 「長野」は新幹線復旧に救われた
- 「松本」では北陸新幹線がバイパスとして機能
- 諏訪地域の交通は「あずさ」頼み
- 高速バスだけでは代替交通にならない
- 長野県内では複数路線がバイパスとして機能できる例が少ない
- 現在はほぼすべての路線でJRは復旧している
一番被害が大きかったのは山梨県内の中央東線
「あずさ」などが走る中央東線の復旧が遅れていたのは、山梨県の四方津ー梁川駅間など複数箇所の土砂流入。
被害を受けた場所が一箇所だけでなかったため復旧に時間がかかりました。
決してJR東日本が中央東線を後回しにしていたのではなくて、それだけ被害が大きかったと考えるほうが自然です。
その後だんだんと復旧していき、最後に残ったのが高尾ー相模湖間。
被害の大きかったこの区間では暫定的に下り線のみが使用可能となり、単線で徐行しながら普通列車のみ、大幅に本数を削減して復旧。
当然ながら、その区間の1本の線路には列車は1つしか入れません。
そのため特急は通常ダイヤでその区間に入れるはずがなく、中央東線が全面的に復旧するまで、中央東線の特急は運休を余儀なくされました。
「長野」は新幹線復旧に救われた
長野県の県庁所在地である長野市。東京からは新幹線で1時間30分と、アクセスしやすい街です。
新幹線が止まっていた頃は、その他の在来線も麻痺状態で、どこにも逃げられず陸の孤島でした。
しかしながら、割と早い新幹線の復旧で救われることになります。
この間の台風では車両センターが千曲川の決壊で水に浸かりましたが、実はその周辺以外はそこまで大きな被害はありませんでした。
というのも長野以南の北陸新幹線は基本的に街中は高架、駅でないところは高台の外れかトンネルを走っているので、被害そのものは出にくい造りです。
また中央東線と違って山中を縫うように走る区間は少なく、基本的になだらかな高地か平野です。
このため土砂崩れなどの被害を受けることはありませんでした。
したがって線路自体の復旧は比較的早くすみました。(車両が水に浸かった中、よくここまで出来たなと筆者は思います)
そして1週間後には本数は少なくてもほぼ復活。ボランティアの方もアクセスがしやすく、多くの方が長野を訪れています。
「松本」では北陸新幹線がバイパスとして機能
新宿ー松本間は普段ですと中央東線の特急「あずさ」で2時間半〜3時間です。
台風の影響で3週間近くにわたって「あずさ」が運休し、北陸新幹線が動くまでは、東京に出るために名古屋へ迂回するしかありませんでした。
ただ、北陸新幹線か復旧すると松本→長野→東京というルートで東京に行けるようになりました。
松本→長野間で特急「しなの」を使い新幹線ヘ乗り換えれば、所要時間は2時間半〜3時間。実は通常時でも「あずさ」とあまり変わりません。
料金としては新幹線に乗らなくてはならないので高額になってしまう点がネックですが、名古屋へ回るよりはマシです。
いや「バスがあるじゃないか」っていうと意見も分かりますが、そう簡単には行かないんですよ…
これに関しては後述。
「松本」も結果として新幹線に救われ、「あずさ」が動く前からほぼ普段通りの所要時間で東京ヘ行けるようになりました。
諏訪地域の交通は「あずさ」頼み
一方諏訪地域では、「あずさ」が復旧するまで東京ヘ向かうのに4〜5時間近い膨大な時間がかかっていました。
(新宿ー上諏訪間の通常は「あずさ」で2時間程度)
東京へ出るためには普通列車で特急接続駅まで移動する必要があり、上諏訪ー名古屋ー東京と移動すると5時間以上、上諏訪ー長野ー東京と移動しても4時間程度と、普段の倍以上の時間がかかりました。
そのため諏訪は松本よりも東京に近いはずなのに、「あずさ」が動かないことによって所要時間が松本よりも長く、経路も長くなるため費用も高くなるという逆転現象が起こります。
北陸新幹線が復旧しても、諏訪地域ではあまり恩恵が受けられなかったのです。
そのうえに諏訪地域では鉄道への直接的な被害が少なかったことも、不満を持つ要因として挙げられます。
これは逆に良かったことですが、遠く離れた山梨県内の被害と対照的に「線路はきれいなのにあずさが動かない」という不安は想像できます。
このような要因が重なったことで、諏訪地域の住民があずさの復旧の遅さに苦言を呈したとも考えられます。
高速バスだけでは代替交通にならない
松本、長野、諏訪地域(岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野)と新宿あるいは池袋の間には、多数の高速バスが運行されています。
高速道路が復旧してから順次高速バスの運転が再開されましたが、すぐにどの便も満席に。
鉄道で輸送できる人員の数より圧倒的に少ない高速バスでは、鉄道の代わりとなる「いつも通りに移動できる交通手段」にはなりませんでした。
このためTwitterなどで「長野県の高速バスは動いてるので是非お越しください」と言われても、実際に移動するのは難しく、アクセスしにくい状況が続いていたことは否めません。
あくまで長野の主要都市と東京を結ぶバスは「鉄道が動いているときの補完する交通手段」という役割なのかもしれません。
長野県内では複数路線がバイパスとして機能できる例が少ない
台風の被害を受け順次復旧した長野県内の鉄道は、地域によって様々な影響がでました。
長野では北陸新幹線の早期の復旧でアクセスが容易となり、多くの観光客やボランティアの方が行き来できるようになりました。
松本では復旧の遅かった「あずさ」が使えない期間が長い中、長野経由で北陸新幹線を使うルートがバイパスとしての機能を果たし、北陸新幹線の早期復旧の恩恵を受けました。
一方の諏訪地域では鉄道に直接的な被害がなかったのにも関わらず、「あずさ」が復旧するまで長い間、東京との間の公共交通機関が事実上機能しませんでした。長野周辺でも、新幹線が復旧しない限りは身動きが取れない状況が続きました。
中央線の特急も北陸新幹線も、長野県内ではかなり重要な交通手段であり、当たり前ですがこれらの路線がないと人々の移動はほぼできなくなります。
長野・松本ー東京は高速バスと鉄道の競合が激しい区間ではありますが、移動する人口が多いため、高速バスは鉄道の補完的な手段にしかならず、「振替輸送」のような機能を果たすことはできなさそうでした。
現在はほぼすべての路線でJRは復旧している
現在では多くの鉄道路線が復旧し、長野県内の鉄道は日常を取り戻しつつあります。北陸新幹線は一部列車が運休していますが、本数もある程度維持され、何時間も待つということはありません。
ボランティアなどではなくても、観光に訪れてくださる方が多くなるだけでも、支援になります。紅葉やリンゴ、栗などがシーズン真っ盛りですので、ぜひ訪れてほしいと、在住者の一人として思います。