台風19号で北陸新幹線の3分の1の編成が水没
台風の影響で車両及び基地が浸水被害を受けた、北陸新幹線。
車両基地が約2mかさ上げされていたものの対策もむなしく浸水し、10編成が水に浸かりました。
現在は東京-金沢間でほぼ通常通りの本数を維持していますが、繁忙期は車両が足りなくなる可能性は十分にあります。
鉄道マニアの間では「北陸新幹線の車両を確保するためにどんなことが起こるか」が注目され、上越新幹線に使用されている2階建て新幹線E4系の延命によって、E7系での置き換えを先延ばしにする説が有力です。
車両面のやりくりは置いておいて、車両基地が浸水したのはなぜなのでしょうか?
台風被害直後では、基地付近のハザードマップを探し出して「10mは浸水する地域だった」というメディアの記事が目立ちました。
ところが多くのメディアでは、JR側の「設計当時にはハザードマップがなく、約2mの盛土をして対応した」というコメントを受けてからは車両基地浸水の原因の追及は止めてしまい、廃車になる新幹線の哀れな様子を映すことに終始しています。
しかし「対策は十分だったのか」という点については、もっと詳細に検討するべきで、再発防止の観点からもそれは大切なことです。少し考えてみたいと思います。
長野新幹線車両センターの被害と現状
豊野駅より徒歩15分、北陸新幹線の車両が所属する長野新幹線車両センター。
先日の台風19号によって周辺の河川が決壊・氾濫した影響で、車両とセンターの1F部分が浸水しほぼ機能出来ない状況が続いています。
訪問時は水没した車両センター1Fの掃除や片付けも行われていました。
新幹線の車両は水没しただけでなく、一部の編成が水に浮いて脱線。
車両の停止位置がずれているのも、浸水時の水の力によって動かされたと考えられます。
車両センター内では新幹線の車両を分割・移動して廃車の準備を進めているようで、連結器カバーが外されています。
なお、浸水した8編成の廃車が決定、残り2編成も廃車の手続きが進められており、北陸新幹線は10編成の車両をを失うことになります。
なぜ浸水したのか
車両センターは明らかに浸水しやすい地形
車両基地は千曲川近くにあり、川が氾濫してつくった平らな低地にあります。
千曲川はこの地図では下(南)から上(北)に向かって流れています。
車両基地の北側では少し標高の高い台地や山に挟まれ、千曲川が流れる方向に向かって狭くなる地形になっています。そのため大量の水が千曲川を流れると、狭くなった部分であふれやすくなるのです。
さらに車両基地の周辺では、小さな川も含めて多くの川が合流していることが分かります。
川が合流する場所は当然水量が増す部分なので、大雨が降った際には浸水する可能性も高くなります。
このように地図だけを見ても明らかに浸水リスクの高い場所に車両基地があることが分かります。
そのため、おそらく安い建築費用で広い土地を確保しようとしたJRは、この土地を選んでしまったとも考えられます。
先人たちも浸水リスクを伝えている
車両基地周辺にはかつての洪水の水位を表す案内があります。
この柱は昭和18年に地元の人が私費で建てたものを平成4年に建て直したもの。
洪水による浸水リスクを示したものは新幹線の建設前から存在していたということになります。
また「赤沼」「長沼」といった「沼」のつく地名も、かつての浸水リスクを示したものである可能性があります。
このように洪水の危険が示唆されている場所であるのにも関わらず…
新幹線の高架は車両センターに合わせて、施設付近だけ低くなっています。
実際に北陸新幹線の本線が台風の影響で浸水したのは、この高架の低くなっている部分だけでした。
車両センターの被害は車両だけではない
台風19号の被害によって車両を失ったJRですが、それだけが損失なわけではありません。
当然車両基地が使えなければ車両を定期点検することもできませんし、なんとか8~9割の本数を維持している北陸新幹線ですがその分のしわ寄せがほかの車両センターに来ていることは想像に難くありません。
一刻もはやい復旧を目指すことも大切ですが、再度このようなことが起こらないように具体的な対策を考えるべきです。
少なくとも2mのかさ上げで浸水被害を防げると思っていたことは誤りだったことは、認識する必要があります。
いつもはJRには甘いですが…(笑)
今回は「車両を何とかすればいいだけ」ではないと…