台風被害を受けた上田電鉄
2019年の台風19号で橋梁が流失した上田電鉄。
当初は「存続が危うい」という声もありましたが、橋梁をなおし、全線で復旧することになりました。
そしていよいよ2021年3月28日、上田電鉄は全線での運転を再開する見通しです。
今回は全線復旧直前の上田電鉄に乗車します!
台風被害後に利用者数は大幅減
上田電鉄は今年度の利用客数が昨年度から14%ほど落ち込む深刻な状況となっています。
台風被害によって橋梁の一部が流失した上田電鉄では、上田ー城下間(一駅の区間)で不通となり、バスによる代行輸送が行われています。
不通となっている区間は市街地が広がっているため、道路の混雑が激しい区間を代行バスが通らなくてはならず、バスによる所要時間の増加は避けられません。
被災前の通常ダイヤから最大で20分以上も所要時間が増えているのが現状です。
代行バスによる所要時間の増加・乗り換えの影響と、感染症拡大のよる利用者数の減少が重なったため利用者数増加から一転、苦しい状況になったと考えられます。
全線復旧はこの状況を脱するために最も大切な取り組みの一つなのです。
一致団結した「復旧」への想い
実は何回も存続の危機を迎えている「別所線」。
筆者もあまり感情移入的な物語は好きではありませんが、別所線の存続への想いは上田電鉄、住民、自治体全てから感じられます。
台風で流失した千曲川橋梁の所有権を「上田市」に移すことで「交付税」を使って迅速に橋梁の工事を行ったり、車内や駅にメッセージを貼ったり、保存車両を城下駅の使わないホームで展示したりと、色々とアイデアを出し合って存続への機運を高めました。
台風以前から、「将来の高齢化社会を見据えて公共交通機関を利用して残そう」とする取り組みを、上田市が中心となってやっていたことも良い影響を与えていたのかもしれません。
利用者も運営者も主体的に存続に向けて団結している姿勢は、今後の公共交通機関の在り方を考える上でも一つのモデルケースになり得ると思います。
上田電鉄別所線に乗車する
上田電鉄別所線、「赤い橋」の今
上田電鉄別所線の上田駅は、高架の1面1線の駅となっています。
前回訪問時はホームが広場として公開されていましたが、運転再開の準備のためか、現在は立ち入ることはできません。
入口には運転再開のポスターや代行バスの案内などが貼られています。
きっぷうりばは通常営業をしていて、グッズ類の販売も行っています。
今月売られていた「千曲川橋梁復興記念タオル」はもうすでに売り切れているようです。
代行バスは上田駅温泉口から出発します。
一つ先の城下駅までが不通区間で、バスで約7~8分かかります。
城下駅に別所温泉からの列車が入線する時間に合わせてこのバスは出るので、折り返し列車の城下駅出発時刻よりだいぶ早めに出発します。
途中で千曲川を渡ります。
道路の橋から「千曲川橋梁」の様子を見ることができ、7月と比べると橋が復旧していることが分かります。
増水期は工事が中断され、昨年11月から引き続き再開されました。
工事はほぼ最終段階に入っているようです。本当にあと少し!
代行バスは途中で住宅街に入り、上田駅の一つお隣の「城下駅」に到着です。
一時的にターミナル駅となっているこの駅には駅員がきっぷの販売や案内を行っています。
おそらくこの光景も全線復旧とともに姿を消すことになると思います。
臨時で設置されている車止めが印象的です。
このカーブの先に、あの赤い千曲川橋梁があります。
反対側に回ってパシャリ。
バスがついてから出発まで時間があるので、こんな感じにブラブラできるのです。
この駅にも熱いメッセージが貼られています。
メッセージを読んでいると、利用者側も運営者側も応援を贈りあっているような、温かい感じが伝わってきます。
利用者促進の取り組みを見る
列車が出発するとしばらく住宅街を走っていきます。
休日だからか、地元の方が多く乗られています。
上田電鉄では「乗って残そう」を合言葉に、台風前から利用者を促進する取り組みが行われています。
途中駅にもその取り組みの一部が現れています。
こちらは大学前駅。
長野大学の前に駅があるのですが、駅前はパークアンドライドの駐車場になっています。
利用料金は無料で、しっかりとした広さがあり使い勝手が良さそうです。
地方私鉄のパークアンドライドって、この規模の駐車スペースが確保できなかったり駐車場が駅から離れていたりしますが、この駅は駅の目の前にスペースがあります。
駐車場は最初砂利だったようですが、現在ではコンクリートで舗装されています。
このような細かな設備投資が意外と利用客に効果がある気がします。
下之郷駅で下車
急勾配や急カーブを繰り返して、下之郷駅に着きました。
下之郷駅は日中、対向列車と行き違いをする拠点駅で、車両基地もあります。
かつてはこの駅から「西丸子線」という路線が分岐していました。
当時(上田丸子電鉄)のホームは現在でも残されています。
上田電鉄の前身の時代、最盛期には別所線に加えて青木線、丸子線、西丸子線、真田傍陽(さなだそえひ)線が走っており、広大な路線網を有していました。
養蚕が盛んな地域だった頃の名残ですね~
青木線や丸子線は、峠を越えて松本まで結ぶという壮大な計画がありましたが、着工されることはありませんでした。
ところで、この駅の最寄りには生島足島(いくしまたるしま)神社という変わった名前の神社があります。
国弊中社だったとのことで、真ん中のランク(?)の神社らしいですが、「真田昌幸などの武将が神領を寄進し社殿を再建」「武田信玄直筆の書が残る」などかなり大事にされていたようです。
筆者は神社について詳しくないので雑で申し訳ありませんが、何とも不思議な境内になっています。まるで堀に囲まれたお城みたい…
この池の中にある神社の造りは、なんと日本最古の形式なんだそうです。
この真ん中にある島に内殿があり、その土間がご神体とのこと。
奥には歌舞伎に使われた館も残っています。
思ったより興味深いところでした。
終点、別所温泉へ
下之郷駅から再び上田電鉄に乗車し、終点まで向かいます。
徐々にですが坂を上ってきていることが後面展望をすると分かります。
八木沢駅に到着。
ピンボケですがなかなか味のある駅で、ミュージックビデオの撮影なんかに使われたこともあるようです。
坂を登り切ると別所温泉駅に到着です。
先ほどから乗車してきたこの車両ですが、丸い窓がデザインされています。
この丸い窓、かつて上田電鉄(当時は上田温泉電軌)が所有していた「丸窓電車」の車両のデザインをイメージしたものです。
「丸窓電車」はなんと1両も解体されず、全てが保存車両となっています。
別所温泉駅にも展示されています。
確かに雰囲気は現在でも受け継がれていますね~
こんな感じで丸窓から丸窓電車を覗くこともできます。
別所温泉駅は以前にもご紹介しましたが、大変味のある駅です。
夜に訪れるとまた違った駅舎の良さを感じることもできます。
再塗装されているので古さや陳腐さは感じませんし、おしゃれな感じがあります。
この駅からは温泉街だけでなく、北向観音などの神社仏閣へ歩いていくことができます。
この一帯は「信州の鎌倉」と呼ばれ、ちょっと大人な旅をするのにふさわしい場所です。
落ち着いたころに別所線に乗って静かに大人な旅をするのも、おすすめですよ~