ホームも異世界のようですが…
日本海沿いを走る、えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン(旧北陸本線)。
新潟県の糸魚川と直江津の中間付近にある筒石駅は、トンネルの中にホームがある「モグラ駅」となっています。
「トンネルの中の駅なら地下鉄にあるでしょ!」と思うかもしれませんが、実はそれとも雰囲気の違う異世界空間があるのです。
さらに、実は筒石駅の外側、筒石の集落には時間が止まったままの空間が広がっています。
今回は駅の中も外も異世界体験ができる筒石駅のご紹介です!
かつては地上駅だったものの、トンネルの中へ移転
トンネルの中にある、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの筒石駅。
かつてはこのような場所ではなく日本海沿いを走っており、筒石駅も地上にありました。
国鉄時代、需要が伸びていた北陸本線(現:えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン)は列車の本数を増やすために電化・複線化を進めていました。
その際、防災や高速化の観点から筒石駅付近を海岸から離れた山間に、真っ直ぐな長いトンネルを掘って抜けるルートが採択され、住民との合意の結果トンネル内に駅が移転することになりました。
モグラ駅「筒石駅」の全貌
シンプルな造りの駅舎
現在の筒石駅は、ほぼ山の中にある秘境駅と言っても過言ではありません。
山間の集落へ通じている道からそれていくと、こじんまりとした駅舎があります。
何もありませんが確かにこの道路の脇にある小さな柵に近づいてみると、1969年につくられた鉄道用の設備であることが分かります。
駅舎に入ると小さなスペースがあって、時刻表や駅ノート、駅スタンプなどが置かれています。
筒石駅のモグラ駅としての知名度は、土合駅などに比べると劣りますが観光として訪れる方も多いようで、駅ノートの更新頻度は高めでした。
かつて筒石駅では「18きっぷの赤券」と呼ばれる非常に珍しいきっぷを購入することができたことで鉄道ファンの間で有名でしたが、2019年から無人化され現在では購入することはできません。
ホームへは約300段の階段を降りるしかありません!
さて、ホームに向かいます。
普通の駅でしたらすぐにホームに行けますが…この先には異世界空間が待っています。
ドアの先にあるこの迷路のような造りは、地下深くにあるトンネルからの風をよけるためのものです。
そして反対側には…
緩い階段を進んでいきます。
歩行者は突き当りを左に進みますが、通路脇を流れる水は直進していきます。
人の入れない直進方向のトンネルの先、穴から覗いてみると…
水が先まで流れていっていることが分かります。
ここまでの区間のトンネル、よく本線のトンネルを工事する前にトンネルの途中まで斜めに掘り進める「斜坑」と呼ばれるものと造りがそっくり……
あとから調べてみると、これは本当に斜坑としてつくられ、そのまま駅の通路として転用されていたようです。
振り返ってみるとこんな感じ…
かろうじて出口の外の明かりが見えるくらいです。
ここから先は各方面のホームまで通路が分かれます。
手前が直江津方面、奥が糸魚川方面のホームへとつながっています。
まずは直江津方面へ階段を下ります…
階段を降りると、小さな待合スペースがあり、奥のドアを開けるとホームになっています。
列車進入時、通過時にはこのホームと待合スペースの間のドアは開けないように注意書きが書かれていました。
現在でこそなくなりましたが、かつては特急「はくたか」や「北越」、「トワイライトエクスプレス」など多くの特急列車が高速で通過する駅でした。
列車が高速で通過すると大きな風圧がかかるので、頑丈な扉が設けられているのです。
外の世界から隔離されたホーム
ホームに入ります。
ホームの長さは約140m程ありますが、実際使われるのは1~2両分のスペースです。
駅名標はJR西日本からえちごトキめき鉄道に移管される時に変更されていいます。
その他はほぼJR時代のまま使われているようです。
糸魚川方面の泊行き普通列車が轟音とともにやって来ました。
えちごトキめき鉄道に移管されてからはもっぱら単行の気動車が使われています。
架線はついているのに電車を使わないのには理由があって……
えちごトキめき鉄道では、糸魚川駅付近で鉄道の電化方式が変わる地点(交直デッドセクション)があります。
この異なる電化方式を直通するにはコストの高い専用の電車が必要になってしまいます。
他にもいくつか理由があると思いますが、利用者数によっては架線からの電気を使わず、自前のエンジンで動く気動車を走らせた方が経済的だったりするのです。
さて、出口へ向かい反対側のホームへ…
一度階段を上がりまして、もう片方の通路へ歩きます。
地下鉄ならばおしゃれな壁と明るい通路が続きますが、こちらは無機質にコンクリートむき出し…逆にそのため雰囲気があります。
糸魚川方面もほぼ同じ造りになっています。
こちらも待合スペースがあって、ドアを開けるとホームに行きます。
当然電波など入りませんので、緊急時はセコムと通常の非常用ボタンの2種類を完備。
片方はセコムに、片方は糸魚川駅に繋がります。
筆者には脱出ボタンのように見えて、心躍るポイントでした。
ホームに出ますとこちらもほぼ同じ造りでした。
140mのホーム、意外と長く感じます。
非常に貴重な筒石の街並み
地上へと登りまして(9文字だけですが実際は結構大変です)、筒石の街並みを目指して歩いていきます。
駅を出て坂を下りていくとまず、北陸道をくぐります。
そして奥には日本海が見えてきます。
もともと「筒石」という集落は「トンネルだから筒状の石」なのではなくて、日本海に面した漁村です。
ご覧の通り駅前は山道でなかなか筒石の集落までは距離があります。
この坂を下り切ると筒石の集落です。
実際筒石駅を筒石集落の人が利用するにはこの山道を登り、あの300段の階段を降りる必要があります…大変すぎる…
まず最初にこの手前の倉庫のような建物に近づいてみます。
これは舟屋と呼ばれる、漁業船のガレージのようなものです。
素晴らしい木造建築…窓枠の歪んだ感じが素晴らしいですね~
後からわかりましたが、これは「新しい方の舟屋」なんだそう。
機会があれば今度は旧舟屋にも寄りたいですね~
少し戻って海沿いを歩いていくと、確かに古い感じの建物が並んでいる感じが見えてきます。
木造3階建ての住宅が多いのかな…
途中で集落に降りてみるとそこには驚きの光景が…
細い路地を中心に木造3階建ての建物がぎっしり。
裏路地に見えますがこれがメインストリートで、数百メートルにわたってこの風景が続きます。
映画のセットのような光景ですが住民が住んでいる雰囲気があり、生きた街であることが肌で感じられます。
どこからか煮魚の良い香りがこのメインストリートに漂っていました。
八百屋さんひとつとっても、とても良い雰囲気。
昔ながらの漁村の形をそのままにとどめている、大変価値のある街並みだと思いますが、観光でぶらぶらしているのは筆者ぐらいでした。
集落の中心には筒石川という川が流れています。
山側を向くと、北陸本線の旧線の橋脚がしっかり残されています。
集落のすぐそばを鉄道が走っていたことが分かります。
反対側を向くと筒石川はすぐ、日本海へと注がれます。
筒石はまるで映画のセットのような街並みで、非常に趣がありました。
建築としても非常に価値の高いものだと思うのですが、特に景観を意図的に保存している様子はありません。
そういう点もこの町の魅力の一つですが、将来にこの風景が残ってほしいな~と思います!
皆さんもモグラ駅「筒石駅」に来られたらぜひ、(駅からですと軽い登山になりますが)筒石の街並みを見に行くのはいかがですか~?